原発性腋窩(えきか)多汗症

原発性腋窩(えきか)多汗症

原発性腋窩(えきか)多汗症とは、内分泌代謝異常、神経疾患などの原因がないにも関わらず、両脇から多量の汗が出てしまう症状です。夏場に限らず、緊張したり、ストレスを感じたり、体温が上がった時などにも過剰に汗が出ます。シャツに汗が染み出る程度の人もいれば、脇から汗がしたたり落ちる人、汗を吸収する汗脇パッドを入れてもパッドがぐっしょりするほど汗をかく人もいます。主に思春期の頃に発症し、汗や臭いが気になって外出できない、色の濃い服は着られない、仕事や勉強に集中できないなど、対人関係や生活上の支障に悩んでいる方は多くいらっしゃいます。2011年の調査では、日本人の5.7%が原発性腋窩多汗症に悩まされていることがわかっています。

原発性腋窩多汗症の原因は、はっきりとわかっていません。通常は、暑さや精神的な緊張・ストレスを脳が感じると、交感神経が活発になり、汗をかくように指令を出します。この指令伝達物質(アセチルコリン)を、汗腺が受け取ることで、汗腺から汗が出ます。特に脇の皮膚には汗腺が多くあるため、汗を多くかきやすい部位です。

また、脇の下には、エクリン汗腺とアポクリン汗腺という2種類の汗腺がありますが、アポクリン汗腺から出る汗に含まれる低級脂肪酸は、皮膚表面の常在菌によって分解されると、ツーンとした不快な臭いを発生させます。特に腋毛がある方は、腋毛にまとわりついた汗で細菌が繁殖しやすくなります。

診断方法

「原発性局所多汗症診療ガイドライン 2015年改訂版」によると、以下の症状が認められる場合に、原発性局所多汗症と診断されます。
まず、前提として、結核などの感染症や甲状腺機能亢進症、内分泌代謝異常、神経疾患や薬剤性の全身性多汗症などを含む続発性多汗症ではないこと。
次に、明らかな原因がなく、過剰な発汗が6か月以上続いていること。
さらに、以下の6つの症状のうち2項目以上にあてはまることです。

1)最初に症状が出たのが25歳以下
2)対称性(両脇)に発汗がみられる
3)睡眠中は発汗が止まっている
4)1週間に1回以上多汗のエピソードがある
5)家族歴がある
6)それらによって日常生活に支障をきたす

また、原発性局所多汗症診療ガイドラインの重症度評価尺度(HDSS)で

1:汗は全く気にならず、日常生活に全く支障がない
2:発汗は我慢できるが、日常生活に時々支障がある
3:発汗はほとんど我慢できず、日常生活に頻繁に支障がある
4:発汗は我慢できず、日常生活に常に支障がある

このうち、3、4に該当する場合は重症と判断されます。

治療法

これまでは、患者さんの年齢や重度に応じて、外科的手術による汗腺切除や交感神経遮断、A型ボツリヌス毒素の注射(いわゆるボトックス注射)、抗コリン薬の内服、塩化アルミニウムローションの塗布などの治療法がありましたが、塩化アルミニウムローションは保険適用外であり、また他の治療法は体への負担や全身性の副作用が懸念されてきました。

保険適用の選択肢

エクロックゲル5%

2020年9月にエクロック®ゲル5%という保険適用の外用薬が発売され、1日1回脇に塗布することで汗の量を抑えることができるようになりました。この薬は、交感神経から分泌されるアセチルコリンによる汗腺への刺激を阻害することで発汗を抑える効果があります。

エクロックゲル5%について詳しくはこちらを参考にしてください。

保険適用の新たな選択肢

ラピフォートワイプ2.5%

2022年5月にマルホ株式会社から新たに「ラピフォート®ワイプ2.5%」という1日1回で使い捨てタイプの外用薬が発売されました。薬液のついた不織布(ワイプ)1枚が1包に入っており、1日1回両脇に塗布することで、交感神経から分泌されるアセチルコリンによる汗腺への刺激を阻害し、発汗を抑えます。エクロックゲル5%との違いは、適用年齢が9歳以上であること、塗布用のアプリケーターが不要で、1回ずつ使い捨てられるので、持ち運びが便利な点です。注意点は、脇に塗布する際には、ワイプでごしごし擦らないこと、皮膚炎のある場所には使用しないこと、脇以外の場所には塗布しないこと、使用後はすみやかに手を洗って廃棄することです。薬剤のついた手で顔や目をこすったりすると、目が霞むなどの副作用が出ることがあります。

詳しい使い方や注意点については、こちらのサイトを参考にしてください。

以前に薬でアレルギー症状が出た方や、脇に皮膚炎や湿疹のある方、緑内障、前立腺肥大症の方、妊婦・妊娠の可能性のある方、授乳中の方は、診察の際にお申し出ください。

次のような副作用が現れた場合は、すぐにクリニックにご相談ください。

・口の渇き、皮膚のかぶれ、光がまぶしく感じる、目がかすむ、ドライアイ、視力低下、排尿困難、頻尿、尿量減少、排尿回数減少、膀胱炎、体温調節の異常